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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

大使館巡り

               ≪八月二十七日≫       ―壱―



  今日という日が何日なのか、何曜日なのか、このメモを記録し

なければ忘れてしまいそうだ。


 夏が終わり、秋が偲び寄って来るなどと、季節の変わり目にひたって

いる事もない。


 生活に追われる事もなく、人生に悲観する事もない。



  今日も目を覚ますと、太陽は中天にさしかかろうとしていた。


 どうも昨日の宴会が効いている様で、まだ頭がクラクラしている。


    従業員「Room Clean!」


 という声に追い立てられて、ロビーに下りて行き、酔い(何の酔

い?)を覚ますためにコーヒーを注文する。



  ロビーにあるレストランからは、ホテルのプールが良く見え

る。


 朝から、泳いだり日光浴をしている毛唐の姿が目に入る。


 その中に一人の日本人がいた。
 彼はこの間、車に乗っけてって

くれた親切な青年である。


 彼も我々に気がついたのか、バスタオルを肩に掛けたままレストラン

に入ってきた。



    俺「良いですね、朝からプールだなんて!」


    彼「とんでもない!これでも朝一仕事した後の泳ぎなんで

すから・・・・。君達は今、起きてきたんだろ。君らこ

そ・・・いい身分じゃないか!」


 名前も聞いていない彼なのだが、なぜだか親しみやすい若者だ。


 彼はこのマレーシア・ホテルには宿泊していないのだそうで、近くの

安宿に泊まっているらしい。


     彼「このマレーシア・ホテルも昔は良かったけど、有名に

なりすぎちゃって、今は宿泊費も高くなったし・・・ど

うもね!」


    俺「・・・・・。」


    彼「だけど、日本人も多いし、情報を集めるには良い所な

んで、ロビーはもっぱらこっちを使ってんだ。それに、

立派なプールもあるしね。」




                      *



  午後からの仕事は、イラン大使館を訪れること。


 タイと言う小さな国で各国大使館周りをしている。


 でも良く考えてみると、交通費の高い、分かりにくい東京で大使館周

りをするよりも、ずっとここバンコックでしたほうが楽なのだ。



  噂によると、イランはノー・ビザになったと言う話だが、それ

を確認する意味もあった。


 若狭と二人で地図に載っているイラン大使館を訪ねるが移転してい

た。


 大使館の前で呆然として立っていると、一人の若い女性が親切にも流

暢な英語で、インフォメーションと直接連絡してくれて、何処へ移転したの

か確認をとってくれたのだ。


 
  そこは、我々が滞在しているマレーシア・ホテルと、タイ大

丸の中間あたりに位置していて、”シェル”と言う看板のある、大きなビル

の九階にあるとの事らしい事がわかった。


    俺「サンキュウ!ベル・マッチ!」


 女性がニッコリ笑う。



  汗が滴り、三日間も同じTシャツを 着ているせいか汗で黒ず

んできている。


 教えられたビルのエレベーターで九階まであがると、重厚な扉を押し

開いた。


 部屋が広いせいか、暗い感じがした。


 天井も高く、部屋の内装も素晴らしく近代的な造りをしている。


 イランの民族衣装を着込んだ、美しい若い女性が一人、正面の大きな

机に座り、たた一人の訪問客と話をしているところだった。



  テーブルの上に重ねられた、ビザ申請書用紙を掴むと、黙々と

用紙に書き入れていった。


 ”身分”だの”宗教”だの、ここでも新しい項目が目につく。


 訪問客がいなくなり、我々の方に目をやる。


 解らない所は、流暢な?英語を駆使して埋めて行く。


 写真を貼る。



    事務員「月曜日に来て下さい!それまでに作って置きます

から・・。」


    俺  「サンキュウ!」


 部屋を出ようとしたとき呼び止められた。


    事務員「エクスキューズ・ミー!アーユー・ジャパニー

ズ?」


    俺  「イエス!」


 彼女が書類を見ながら言った。


    事務員「ノー・ビザ!」


    俺  「な~~~だ!いらないの!!」



  彼女が指し示す所を見る。


 そこには、二十カ国ぐらいの国の名前が書かれていて、その中に日本

の名前が有った。


 要するに、最近ノー・ビザになった国の名前が書かれていたのだ。



  ガックリしながら、タイ大丸の地下にある”ジュネ”へ向か

う。


 ”ジュネ”には、新保君、政雄、田中君がいた。


 政雄は俺達が中に入るとすぐ、日本大使館へ行くと言って出て行っ

た。


    新保「日本からギリシャにやってくる婚約者の事が気にな

ってるんじゃ・・・ないの!」


    俺 「そりゃ、気になるよ。」


 ゴールのアテネで、結婚式を挙げようと言う彼女からの手紙が、まだ

来ていないと言って、毎日大使館通いをしている政雄君である。



  この”ジュネス”には、日本食もある。


 お客には日本人も多く、何かの商談などに良く利用されていると言

う。


 少々高いのだが、たまには良いだろうと、日本食を注文。


 味噌汁にカレーライス。


 36.5バーツ(≒550円)。


 日本を離れてはじめての日本食に感激しながら、味噌汁を啜る。



  ここタイ大丸には、日本書籍の店もある。


 日本の女性店員も二人いて、日本語で対応してくれる。


 ここに来ると、今日本にいると錯覚してしまうほどだ。


 ここへ入ったのが運のつき、日本の本を買ってしまった。


 なんともだらしのない話である。



  今夕、田中君を送り出す。


    政雄「チクショウ―!明日は日本だな。良いなー!!」


 仲間達は皆、ホームシックにかかってしまったようだ。


    俺 「飛行機が落っこちないよう、祈っているよ!」


    田中「良いなー!俺も皆と一緒に行きたかったなー!もっと早

く解っていたら参加してたのに。手紙下さいね。」


    皆 「元気で!」



  長い夜が始まる。
 風呂場で洗濯をする。


 黒い汁が出てくる。


 汚ね~~な!



  タイでの大使館めぐりも今日でおしまい。


 インドとアフガニスタンのビザは、これから行くネパールで取る事に

した。


 チケットも買ったし、ネパールに発つまでの二週間をどうして過ごす

か?


観光旅行ではないのだ。


 予想以上に金が出て行く。


    俺「何とかしなくては!」



  静かな夜を迎えて、ラジオから流れてくるイングリッシュ・ミ

ュージックを聞きながら、日本に残してきた彼女や友達に手紙を書く事が、

長い夜の楽しみになってきている。


 自分を取り戻す、唯一の時間なのかも知れない。



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